講座005 上谷小学校

第4回 ある思い出

今回は4代目校舎、つまり現在コミュニティセンターとして活用されている校舎について振り返っていきましょう。

3代目校舎から4代目の校舎に移転したのが平成14年で、これはちょうど「ゆとり教育」が施行されたのと同じ年です。そして、上谷小学校が休校したのが2008年ですが、この年は学習指導要領の改訂が行われ「ゆとり教育」の見直しがはかられた年でもあります。つまり、4代目の校舎は「ゆとり教育」とともに歩んだ校舎なのです。

 

「ゆとり教育」では生きる力を育むことに重点が置かれました。上谷小学校でも、課外授業が積極的に行われたようです。当時の在校生の方が、夏休みに校庭にテントを張ってキャンプをした時の思い出を語ってくださいました。そのキャンプでは晩御飯を調理室で作り、野外で食べることになっていました。皆で協力して野菜を切り、お湯を煮立ててカレーを作ったそうです。そしてルーを入れて、美味しいカレーが完成し、それを外に持っていこうと調理室を出た途端、その方が、鍋に入っていたカレーをこぼしてしまいました。皆で協力して作り上げたカレーを台無しにしてしまい、申し訳ない気持ちでいると、誰もそんな自分を責めることなく、皆でこぼれたカレーを掃除するのを手伝ってくれたそうです。その心遣いがとても嬉しかったと話して下さいました。

 

生きていく中で失敗や挫折があったとしても、お互いの尊厳を認め合い、その存在のかけがえのなさに思いを遣り、お互いを尊重しあえたならば、それはとても大きな生きる力に成るのではないでしょうか。

しばしば「ゆとり世代」という言葉が批判的なニュアンスで口にされますが制度的な欠陥や方法論的な間違いに拘泥していると、その背後にある本質的なものが蔑ろにされてしまう危険性があります。どの世代にもそれぞれの言い分があるでしょうが、しかし、そもそも教育は主義や主張ではなく、人の成長を支えるためのものであるはずです。

 

成長するとは物事の価値がわかるようになるということではないでしょうか。それは一朝一夕に分かるものばかりではありません。むしろ価値のあるものほど、それが分かるためには長い年月を必要とするものです。かつては小学校として、そして今はコミュニティセンターとして、どのような時代も私たちの成長を信じ見守ってくれている私たちの学舎に思いを馳せると、いつの間にか湧き上がってくる敬意と感謝の想いに満たされています。