相性と相剋
陰陽五行思想についての講座も今回で最終回となります。まずは、前回少し触れた「相生」と「相剋」という概念について見ていきましょう。
陰陽五行思想において万物を構成する五つの要素である木、火、土、金、水には、お互いを強め合う「相生」という関係と、お互いを弱め合う「相剋」という関係があるというお話を前回しました。そして、木→火→土→金→水という順序は「相生」の関係にあるといいました。それはなぜでしょうか。
それはこういうことです。木は燃えると火になります。火は灰、すなわち土を生み出します。土の中からは鉱物、すなわち金が生じます。そして、鉱物は腐食してミネラルとなって水と溶け合うことで栄養豊かな水を作り出します。そして、水は木々を育む大きな力となるという訳です。
反対に、「相剋」の関係はどのようになるでしょうか。木→土→水→火→金となります。木は土を突き破って成長し、土は水をせき止めて、水は火を消し、火は金を溶かしてしまい、金は木を傷つけてしまう、そのようにお互いの特徴を弱める関係となるからです。
では、こうした考え方が実際にどのように役立つのでしょうか。例えば五臓六腑という言葉があります。実は、これも陰陽五行思想に対応しているのです。五臓の肝臓は木、心臓は火、脾臓は土、肺は金、そして腎臓は水にわりあてられます。
伝統的な西洋医学では、たとえば、肝臓が悪い時、肝臓という臓器自体に大きく注目します。しかし、陰陽五行思想に裏付けられた東洋医学では、木である肝臓の働きを金である肺が「相剋」の関係によって弱めているのではないか、あるいは水である腎臓の働きが強すぎて木である肝臓との「相生」関係のバランスが崩れているのではないかといった、全体の関係性に注目するのです。
さて、私たちは何か問題が発生したとき、その問題を解決しようとあせるあまり、その原因探しに躍起になり、その問題がどのような関係性の中で起こったのかということに関して認知する努力を怠ることがしばしばあるのではないでしょうか。しかし、本当に重要なのは、その問題にどのような意味をもたせ、またそれに自分がどのように関わっていくかということなのだと、私たちの祖先が大切にしてきた知恵は教えてくれているような気がします。
(了)